勘合貿易の秘密(勘合符が使われた本当の理由とは?)

中学歴史の超頻出問題

「勘合貿易の(勘合船に勘合符という合い札を持たせた)目的をこたえよ。」

一般的な模範解答は

「正式な貿易船と倭寇(わこう)を区別するため。」

 

なのですが・・・

 

この答って

つっこみどころまんさい、、、ですよね

本当に合い札なんかで海賊(倭寇)をおさえることなんて、できたのでしょうか?


ネットを調べてみたら、けっこう多くの中学生が疑問を持ち「質問解決ページ」などに質問していました。

さすがに中学生なんでいい感性をしていますね。

 

彼らの疑問をまとめますと、まあ、言われてみれば全くその通りなのですが・・・

「海賊なんて、守りの武力が自分たちより劣っていたら襲うだろうし、守りがしっかりしているところだったらスルーするだろうから関係ないんじゃない?」

「合い札で海賊と見破ったとしても、その後どうするの?」

などなど・・・

 

疑問はもっともです。

 

私も小学生の時、「倭寇は貿易船のふりをして港に入ってきて、襲ったんだ。」という説明を聞いて、なんとなく納得できたような気がしました。

でも、もしこれが本当だとしても、勘合という合い札が機能するのは、まだ勘合の存在が海賊に知られていないごく初期の段階だけで、あっという間に意味がなくなります。

 

この疑問を解決するために、今日は「勘合貿易」そのものから考えてみましょう。

 

まず大きな前提として

勘合を持たせたのは日本(室町幕府)ではなく、中国(明)です。

「3代将軍 足利義満(室町幕府)が、貿易船に勘合を持たせた目的を書きなさい。」というように出題されているテスト問題や問題集も結構あるのですが、これらはこの時点でアウトです。(我々のようなものが、こういうのをもっと指摘していく必要はあるかもしれませんね。)

 

なぜ、中国(明)が勘合を持たせたかを考えなくてはいけません。

 

当時、中国は自分たちの国が世界の中心と考えていました。それを中華思想といい、現在の国名の由来にもなっています。

実際に、中国は日本や朝鮮半島を含む東アジア文化圏の中心でした。

 

中国で「明(みん)」という王朝ができたのは日本で室町幕府が成立した時と同じころ、最初は日本と明との間で国交は結ばれず正式な貿易は行っていませんでした。

 

そんな中国(明)は日本の室町幕府に、中国が「主人(皇帝)」で日本が「家来(臣下)」という形なら国交を開き貿易をしてやってもいいと持ち掛けます。その「主人(皇帝)」と「家来(臣下)」の関係を示すのが勘合です。そのため「明」は正式な貿易船に勘合を持たせました。

(それ以前は貿易をしていなかったわけですから、倭寇が貿易船のふりをして港に侵入したというのは、残念ながら矛盾のある説明ということになります。)

 

「臣下」という形に抵抗はありますが、中国が「主人」として「臣下」に恩寵(ごほうび)を与えてやる、という形でしたので日本側に利益が多く、室町幕府が弱体化した1400年代にも博多や堺の商人を通して続けられました。

 

一方「明」にどんなメリットがあったかというと、「明」が倭寇に苦しめられていたのは事実です。

 

ここで「海賊」についても考えてみましょう

世界中のすべての海賊を調べたわけではないので、こういう面もあるという話なのですが…

 

おそらく、略奪だけをしている海賊団なんて小さな海賊団だといえるでしょう。

それはそうですよ。

大規模な海賊団が略奪を繰り返したら襲われたところの再生が間に合わず、あっという間に襲う場所もなくなってしまいます。

 

古今東西、いわゆる海賊、その中でも大きな海賊団にとって略奪は収入源のごく一部であり、そのほかに主要な収入源を持っていました。

 

 それは・・・

正式に認められた貿易以外の貿易   いわゆる密貿易(密輸)です

こういう経済基盤を持った海賊が、大海賊としてはびこっていました。

 

今でも悪い奴らが密輸してますよね。それが大きな収入になるということです。

 

ここで思い出してみましょう。中国(明)と日本は国交がなく貿易していませんでした。

ということは、・・・何を貿易しても密貿易です。

倭寇はこの密貿易を主な収入源にしていたといわれています。

 

この状態で密貿易を抑える方法・・・

そうです、正式に貿易すればよいのです。よって、「明」は日本と国交を開き貿易を始めました。

実際、倭寇は勘合貿易をきっかけにその勢力を落としていきます。

 

すなわち、勘合貿易を始めた目的をこたえよといわれれば

「正式な貿易船を認めることにより、密貿易を抑え倭寇の勢力を落とすため。」

となりますが、ちょっと長ったらしいですよね。

 

「貿易船」という言葉だけで、物体としての貿易船だけでなく、

貿易のシステムや制度・貿易そのもののことまで表せますのでコンパクトにまとめるとこうなります。

正式な貿易船と倭寇を区別するため

びっくりですね。最初の答えと一巡して同じになりました。

もともとは、上で説明したようなことをふまえてこういう問題と答えがあったのですが、いつの間にか形だけになってしまったのでしょうね。

 

でも、このブログがきっかけで5年後10年後のこの問題の模範解答が「密貿易をおさえ、倭寇の勢力を落とすため。」、となっていたら面白いですね。


以上です。

コメントなどいただけると、とてもうれしいです。

「こういう教材があったらいいな」のようなご意見でも、助かります。

 

富士宮教材開発

井出真歩


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